御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで



 別荘では浅田さんが荷物をトランクへ放り込んでいる所だった。私の姿、それも斗真さんに抱えられての登場に見開く。

「君……君は一体今まで何処に行たんだ!」

 怒鳴り声に私を心配する成分は含まれていない。どうやら私の荷物も積み込もうとしていたらしく、ボストンバッグが叩き付けられた。
 斗真さんの胸をそっと押し、降ろして貰う。緊張で足は竦むが説明責任は果たそう。

「自分が何をしたか分かってるのか? 君が連れているその男はな、朝からここへやって来て君を返せと言ったんだ! はぁ? 返せとは? 君は僕の妻になる女性だろうが? 僕に抱かれるという妻としての役割を放棄した挙げ句、間男を呼び出したのか?」

「私はーー」

「口ごたえするなよ、君は黙って僕の言う事に従えばいいんだ!」

 浅田さんが私の腕に触れようとすると、側から伸びてきた手が払い除けた。

「人を間男扱いしないで頂きたい。それを言うならお前が間男だ。姫香の安否を気にするでなく怒鳴り散らすなんてーー器が小さいにも程がある」

 私を自分の後ろへ移動させ、斗真さんは浅田さんの怒りと真っ向から対峙する。

「し、失礼だぞ!」

「お前に礼儀正しく接する義理はないからな」

「僕は彼女と話をしている。部外者は黙っていてくれ。これは夫婦の問題なんだ」