御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

 斗真さんの腕が離れていきホッとしたような、残念なような。

「今はしないだけだから、な。浅田とケリをつけた後、もう一度俺の気持ちを聞いてくれ。そして姫香の本当の気持ちを聞かせて? キスもその先も我慢はしなくてもいいように」

 複雑な胸中へ宣言し終え、さっそく別荘へ戻る準備をする斗真さん。浅田さんと揉めるのは火を見るより明らか、彼は私を置いていくかもしれない。
 宣言内容に反応する間も与えられず、パンプスを履く。と突然、膝裏へ手を差し込まれた。
 身体がふわりと浮き、いわゆるお姫様抱っこをされたのだ。

「置いていかない、の?」

「連れて行く。浅田との醜いやりとりに巻き込みたくないが、イタリアから取りに戻った忘れ物はきちんと持っていかないと、な?」

「……重いでしょう? 置いていかないなら降ろして。歩けます」

「いいや、それは無理なお願いだね。忘れ物には羽根が生えていて、目を離すと何処かへ飛んでいってしまいそうなんだーーそれにしても綺麗になったな、姫香」

 キスもその先も我慢すると言った矢先、うっとり目を細めて甘く囁く。彼は私を宝物かつ忘れ物と言う。

 口をパクパク動かすものの反論を発さない私に斗真さんはこう続けた。

「可愛い小鳥の餌付けが楽しみだ」