御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

 スーツの襟に付けた社章を顎で差す。ガラスの靴をモチーフとしたシンボルマークは有名だ。斗真さんはこの優良と名高い企業の代表取締役を務めている。

「立ち場をひけらかして納得させたい訳じゃないが、俺は姫香の悩みを解決する力を持っている。それが金銭的な困り事であっても浅田を頼らず、俺に相談して欲しかったな」

「……そう言ってくれるのが分かっていたからこそ、言えなかったんです。経済誌で斗真さんが特集されていたのを見ました。世界中で活躍して、なんだか遠い人になってしまったみたいで」

 手を伸ばせば触れられる距離なのに、置かれた立場が遠すぎる。

「俺を凄いと言ってくれるのは嬉しい。ただ、姫香のお父さんの研究も世界的に認められているじゃないか? お父さんが倒れられて不安なのは当たり前だけど、姫香が家業を代理で担うべきだったんだ」

「私なんて手伝い程度ですよ」

「姫香のお父さんは姫香を信頼し、サポートをお願いしていたと思う」

 泣いたところで父の病状は良くならない。涙を堪え、唇を噛む。

「こら、そんなに噛むと血が出る。もうこれ以上、俺の宝物を傷付けたくないよ。そう、三つ目は姫香を迎えに来るのが遅れた自分に腹を立てているんだ」

「迎えに来た? 私を?」

「あぁ。お姫様のピンチに白馬じゃなく、プライベートジェットに乗って駆けつけたって言ったよな」

 斗真さんは頬へ手を伸ばして、食いしばりを解く。顎を持たれ、泣きたいなら泣きなさいと瞳と瞳で語る。
 彼の三つの怒りは二つが己に向けられており、私がした選択を極力非難しない言い回しをした。

「まぁ、いきなり迎えに来たとか言われても困らせるか。よし、悪い魔法使いを退治して姫香の不安を取り除いてから、姫香をさらうとしよう」