御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

 「迷惑だなんて、そんな」

 言うはずない。むしろ飛び上がって喜びたいくらい。それでも口をつくのは疑問だった。

「お仕事に影響はないですか?」

 可愛気のない言い草に斗真さんは襟足を掻く。

「そりゃあ、無いとは言わないさ。けどな、物事の優先順位を誤りたくない」

 私の肩を押すと座らせ、片膝を躊躇せずつく。それから靴擦れした箇所をみ、形の良い眉を顰めた。

「あぁ、素足でパンプスを履いたのか。染みるだろうが我慢しろ」

 ぬるま湯に足を浸し、患部を洗ってくれる。チャプチャプ波立つ水音が私の心もざわつかせた。
 斗真さんを浅田さんと勘違いしてしまい、一連の流れは伝わっているはず。援助目的に結婚すると知り、どう思われているのだろう。

「後は自分でやりますから」

 かしづき足を洗う斗真さん。そんな丁寧にお世話されると照れて、真っ直ぐ見られない。

「姫香、俺は怒っているんだぞ?」

 洗面器から足を出そうとしたら制止された。引っ込め掛けた足はタオルに包まれ、斗真さんの膝の上へ乗せられる。

「ちなみに怒っている理由は三つある。一つ目は浅田との結婚を黙っていた事」

「それは!」

「俺が知れば介入すると考えたんだろう? 二つ目は姫香につまらない遠慮をさせたのを怒っている」