御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

 別荘には斗真さんもよく同行していたので、彼へ鍵を預けるのもおかしくはない。ただ昨夜の夕食のメニューなどから察して、恋人と滞在するであろうと考えていたはずだ。

 斗真さんが言ってくれた通り、管理人さんはわたしを大変可愛がってくれ、別荘を訪ねる機会は減っても季節のやりとりは欠かさなかった。
 だから私が昨日、挨拶にも来なかった事で事情を気取ったのかもしれない。

「斗真さん、あの……」

「靴を脱いで腰掛けて。まず手当をしよう」

 小屋には本格的ではないが休息をとる程度の設備が整えられている。斗真さんは棚から救急箱を用意し、洗面器にお湯を張る。

 彼に無駄な動きはない。イタリアから日本までの移動時間はおおよそ十二時間、ここへ辿り着く段取りもしっかりつけたのであろう。

「さぁ、座って」

 立ったままの私に改めて着席を促す。

「自惚れだったら恥ずかしいんだけど、私の為にわざわざイタリアから?」

「プライベートジェットに乗って姫香に会いにきたーーって言ったら自惚れてくれる? いきなり来られて迷惑だとか言わないくれる?」