尚あちらの沈黙は続く。これ以上、浅田さんへの感謝を表現できそうもなく。立ち上がり謝罪を重ねようとするが、足に力が入らずよろけてしまった。
あぁ、このまま地面へ転がり落ちるのか。でも私が泥にまみれれば、浅田さんも少しは気が治まるかもしれないと諦める。
ーーが、私は倒れなかった。そればかりか抱き止められており、優しく髪を梳かれている。
この仔猫に触れるような手付きを見上げ、息を飲む。
「どうし、て?」
視線の先には一番会いたい人が居るのに、最初に口をつくのは疑問。
「迎えに来たよ。遅くなってすまない」
「斗真さん……」
数年ぶりでも間違えようがない名を呼び、都合のよい夢を見てるのでないか不安に陥る。背伸びをして彼の背へ手を回してみた。
「姫香、辛い思いをしたな。もう大丈夫だ」
目の前の斗真さんは幻影にしては温かく、クリアな声質も幻聴じゃない。
「事情は把握したから。一旦、中で休もう? フラフラしてるじゃないか?」
「でも鍵が」
「管理人さんから借りてきた。あの人、今も変わらないね? 姫香を娘みたいに思っている」
さっとポケットから鍵を取り出す。
あぁ、このまま地面へ転がり落ちるのか。でも私が泥にまみれれば、浅田さんも少しは気が治まるかもしれないと諦める。
ーーが、私は倒れなかった。そればかりか抱き止められており、優しく髪を梳かれている。
この仔猫に触れるような手付きを見上げ、息を飲む。
「どうし、て?」
視線の先には一番会いたい人が居るのに、最初に口をつくのは疑問。
「迎えに来たよ。遅くなってすまない」
「斗真さん……」
数年ぶりでも間違えようがない名を呼び、都合のよい夢を見てるのでないか不安に陥る。背伸びをして彼の背へ手を回してみた。
「姫香、辛い思いをしたな。もう大丈夫だ」
目の前の斗真さんは幻影にしては温かく、クリアな声質も幻聴じゃない。
「事情は把握したから。一旦、中で休もう? フラフラしてるじゃないか?」
「でも鍵が」
「管理人さんから借りてきた。あの人、今も変わらないね? 姫香を娘みたいに思っている」
さっとポケットから鍵を取り出す。

