御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

 浅田さんが私を探しに森へ入って来なかったのは幸い? それとも?
 いずれにしろ別荘に帰るしかない。明るくなり始めた景色は私を隠し続けてはくれないのだから。

 ーーガサリッ。その時、踏み分けてくる気配がした。音がする方向へ振り返り、身構える。
 まさか浅田さんだろうか? 朝靄に包まれたシルエットは人である事しか判別がつかなず、こちらに向かって真っ直ぐ近付いてきた。

「浅田さんですか?」

 こわごわ問い掛けると、足音が止まった。

「あ、あの昨夜は大変申し訳ありませんでした! あなたが入浴中に逃げ出すなんて、卑怯な真似をしたと思っています。で、でも手回り品は全部置いてきました。私は本気で逃げたかったのではなく……」

 往生際が悪いと自覚しつつ、言い訳が止まらない。彼の性格上、私を探すにしても管理人に指示を出すと予想していた。浅田さん自ら、動かないだろうと。

 ところが余程、腹に据えかねたのか。私の申し開きに無言のまま。こちらの出方を伺っている様子だ。

「私の家へ援助して下さり、本当に感謝しています。父が倒れ、伯父が代理で家業を担うものの経営に明るくない為、浅田さんのお力添えがなければ立ち行きません」