御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

 斗真さんが私の為に靴を仕立ててくれる、それはまさにシンデレラのガラスの靴。

「だからと言って、急いで大人になるなよ。どうか、俺が一人前になる前にかぼちゃの馬車には乗らないで」

 また頭を撫でて、斗真さんが微笑む。手作りのウッドテーブルの上で約束を交わす。

 ーーこれから数年後、彼はイタリア行きを決めるのだ。



 小屋が見えてきた。ホー、ホー、梟(ふくろう)が鳴く。懐かしさと心細さから扉へ向かって駆け出してノブを回した。

「……開いてる訳、ないか」

 手元からガチャガチャ空回りの音が虚しく響き、斗真さんとの穏やかな思い出から締め出された気分になる。

 シンデレラの靴を贈って貰える約束を楽しみにしてきた。初恋が実るとは考えていなかったが、斗真さんに大人の女性と認められる日を夢みていた。
 そして、私は楽しみに夢見ていただけで行動が伴っていなかったんだ。

 靴擦れを起こして、泥まみれのパンプスを見下ろす。現実逃避する自分が情けない。けれど、どうしても浅田さんの元へ帰りたくない。

 その場にしゃがみ、息を潜めると身体を小さく折り畳む。

 いつまでそうして居たのだろう。気付くと夜を歌う梟(ふくろう)から朝を奏でるヒヨドリへマイクがバトンタッチされる。