御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで



「さて、風呂はどちらから入ろうか」

 管理人が用意してくれた夕食を済ませるなり、浅田さんは切り出した。

 食事中、大した会話はなく淡々と食べ物を口に運んでいた私達。もはや肌を重ねる事が旅行の目的と受け取っても仕方ない。ただ本当に身体が目当てであろうと、それを隠そうともしない神経に嫌気がさす。

「……」

 私が黙ると、浅田さんは肩を竦める。

「そういう顔をされるとは心外だな。君は妻にする女性。抱く権利が僕にはあるだろう」

「私はもっとお互いの事を知ってからーーと考えてます」

「はっ、子供みたいな事を言わないでくれ。金で買われた自覚はあるでしょうに。君の伯父さんには伝えているはずだよ? 君が従順でいてくれれば援助は惜しまないと」

 目の前に絶望の札束を積まれ、真っ暗になった。私は浅田さんを好きになり、好きになって貰える努力をしたいが、あちらにそのつもりは毛頭無いのだ。

「どんな結婚生活を夢見ているのか知らないが、君は浅田の家に入り、僕が言う通り大人しく笑っていればいいんだ」