忘却の天使は溺愛に囚われて



 その瞬間ゾッと鳥肌が立ち、危険を感じた私はその場から逃げようとしたけれど……。

「やっと見つけたぞ、このクソアマ!」
「いっ……」

 男は私の髪を乱暴に掴み、無理矢理車の後部座席に乗せられる。


「やだっ、誰か助け……んうっ」

 叫んで暴れたけれど男の力には敵わず、口を塞がれ両手足を縛られてしまう。


「命が惜しけりゃ大人しくしろ」

 男は私の首を絞める勢いで首元を掴み、脅してきた。
 恐怖と痛みで声が出ず、涙ぐみながら何度も頷く。

「はっ、こんな弱いくせに俺を騙してたのかよ。ふざけんなよ、絶対に許さねえからな」

 男は憎しみを含んだ目を私に向ける。
 そんな男に見覚えなど一切なく、今の状況が全く理解できない。

 男はまるで私を恨んでいる様子だった。
 けれど私はこの男のことなんて知らない。