「朔夜さん、おはようございます!」
「……ああ」

 朔夜さんは安心したように息を吐いた後、まるで当然のように私をギュッと抱きしめる。
 どうしたのだろうと思ったけれど、私を抱きしめる朔夜さんの手が微かに震えていることに気がついた。

 どうやら、起きたら私がいなかったことで不安にさせてしまったようだ。
 私は勝手に消えてしまうような“カンナ”ではないのに。

「見てください、朔夜さん! まだ途中ですが、これが今日の朝ごはんです!」

 負の感情を振り払って、私らしく朔夜さんに声をかける。
 ねえ、気づいて朔夜さん。私は“カンナ”ではなく“乙葉”だって。全くの別人だって。

「いつもお世話になってばかりでお礼がしたかったので、張り切って作っちゃいました! あ、でも勝手にキッチン借りてすみません……」

「……料理、得意なのか?」
「はい! 家でもよく作るので、味には自信があります!」
「そうか、それは楽しみだな」

 やっと朔夜さんが微笑んでくれる。
 私の胸を高鳴らせるその笑みを見て、今は安心してしまう自分がいた。