「……ん、じゃあ帰るか」
少し間が空いたけれど、朔夜さんはふっと笑みを浮かべてそう言った。
朔夜さんの家に帰る……って、なんかまだ慣れないな。
今日も朔夜さんのバイクの後ろに乗って、彼の服を掴む。
ねえ朔夜さん、“カンナ”ってどんな人だった?
心の中では何度でもその言葉を呟けるのに、口にはできない。
「おかえり」
家に着くと、朔夜さんは今日も私を見てそう言った。
快く出迎えられている気がして、嬉しいと同時にまた泣きたくなる。
この無性に泣きたくなるのってどうしてだろう。
今日色々あったのもあり、余計にその温かさに触れて泣きそうになったのかもしれない。
「……ただいま、朔夜さん」
涙を堪え、私も微笑みながら返す。
朔夜さんは一瞬驚いたように目を見張ったけれど、すぐに笑みを浮かべた。
私を気遣ってか、朔夜さんは今日のことについて触れてこようとしない。
考えがまとまっていないため、ありがたい反面、私には興味がないのだと思ってしまい胸が痛む。
私ってわがままだな……聞かれても、きっと答えられないのに。今日の女性について、“カンナ”について聞く勇気などないのに。
それでも、もっと踏み込んでほしいと思ってしまう。
今でも十分尽くしてくれているのに、徐々に自分が欲張りになっている気がして、少し怖くなった。