その日の夜、私は夢をみた。

『どうした? 今日は珍しく甘えてくるんだな』
『……うん』

 顔は誰かわからないけれど、この声を私は知っている。
 けれど、私が普段聞いているものよりさらに優しさ、愛おしさの含む声をしていた。

 いったい誰に向けた言葉なんだろう。
 ねえ教えて、朔夜さん──


「……う、ん」

 夢はそこで途切れ、私は目を覚ました。
 なぜか視界が歪んできて、その時初めて私は泣いているのだと理解した。

「また私、泣いてる……」

 昨日もそうだった。
 別に何か悲しいことがあったわけでもないのに、気づけば泣いているのだ。

「乙葉、どうかしたのか?」

 涙を拭っていると、夢で聞いた声がした。
 パッと顔をあげると、すでに起きていた朔夜さんが私を見るなり目を見張る。

「なんで泣いて……」
「お、はようございます! 少し怖い夢をみていたみたいで……」

 慌てて笑顔を浮かべ、勢いよくベッドから下りた。
 昨日に続き今日も泣いているところを見られ、少し恥ずかしい。