忘却の天使は溺愛に囚われて



「それよりもう一度名前、教えてくれないか」
「あ、えっと……乙葉って言います」

「乙葉。で、俺のことは覚えてねえと」
「本当に私なんですか? あなたの探してる人は……さっきの男もそうですし」

「俺のことは名前で呼べ」
「うっ……わかりました」

 さっきから名前で呼ぶことに拘ってくるけれど、何なのだろう。
 強引で断りにくく、大人しく従うことにした。

「乙葉のことで間違いない。俺が探している女と瓜二つなんだ。双子がいるなら話は別だが」

「いいえ、いません。一人っ子なので」
「じゃあ乙葉のことで間違いないな」

 そんな言い切ってくるけれど、当の本人は何も思い出していない。
 今も朔夜さんとは初対面のつもりだ。

 朔夜さんに連れてこられたのは、無法地帯らしい古びた家。
 豪邸を予想していただけに、少し残念……と思いきや。

「こっちだ。足元には気をつけろよ」
「わあ……!」

 家の中も薄汚れていてボロかったが、奥は何やら最新式の頑丈な鉄扉が現れ、カードキーをかざすことで扉が開き、地下へと続く階段が出てきた。