「あーあ、また遅刻じゃん……」

朝日が差し込む部屋の中、私はボサボサの髪を整えながらそう呟いた。
最近寝坊続きで、ほぼ毎日遅刻をしている。
こんなのじゃ、近々先生に呼び出されて無駄に説教を受ける羽目になる。

「でも走ったら前髪崩れる…。」

私は、どうせ遅刻するなら急ぐ必要は無いと判断し、家から駅まで音楽をききながら歩いた。

「…あの人、今日もいるかな。」

私には今、気になっている人がいる。
高身長で、いつもメガネをかけて本を読んで電車に乗っている男の人。
私はその人に一目惚れをしてしまった。
メガネ男子が好みという訳でも、高身長がとても好きということでも無かった。
それなのに何故か、彼に惹かれてしまっていた。

しかし、寝坊するようになってからは、時間が違うのかこの数日は会うことは無くなっていた。


「…明日はちゃんと起きよう。あ、祝日だから休みじゃん。」

運が良いのか悪いのか。
明日は祝日で、学校が休校になる日だった。

「ちぇ。」

私は定期券を改札で通し、電車に乗った。
時間帯的に人混みのピークは過ぎているので、遅刻しない日よりかは席が空いていた。

私は扉に1番近い席を選び、カバンを前にして座った。

私は、たまに周囲を見渡して、あの人がいないか確認する癖が出来てしまっていた。

(まあ、あんな真面目そうな人が遅刻するわけないか。)

そんなことを思いながら、私はお気に入りの音楽をイヤホンで流していた。

《ごめんユナ。今日も寝坊したわ。》

《まじでなにやってんの。生徒課長に叱られるよ?》

《マ?それだけは勘弁》

《それが嫌ならちゃんと毎朝起きなよ。》

《ユナは真面目だね。人生まだまだこれからなんだからさ、その中の数日遅刻するくらい大丈夫だよ。》


私は、中学の頃からの親友のユナとメールをしていた。
ユナは真面目な性格で、ルーズに行動する私とは正反対だった。
ユナはもう、学校に着いているらしい。

(私まだ電車だよ〜)

心の中で、ユナにそう呟いた。

私は自分が結構好きだ。
だから今の性格を変えようとは思っていない。確かに、ルーズなのが時に支障をきたすことは多い。だが、ルーズということは一つ一つの物事を丁寧にこなす性格とも言える。


♩【屁理屈なんかは〜もう言わないよ】


丁度、イヤホンで聞いていた曲の歌詞と、今の私の心境とが重なり合い、少し笑ってしまった。



「次は、久遠町、久遠町です。」






「降りなきゃ。」