この日は委員会がある。
放課後、荷物を手早くまとめて委員会のファイルを持つ。
「あ、まって六里さ……」
三嶋の引き止める声を無視して教室を出る。
「ろくりん、ゆずと一緒に行こ〜!」
「ゆず!いいよ」
七瀬ゆず。小学校の頃からの仲良し。ちなみに隣のクラスで体育も一緒。
「ろくりんてのもうそろ卒業しねえ?」
「えーやだよ〜。だってゆずだけの呼び方だもん」
栗色のふわふわの髪の毛を揺らして上目遣いでこちらを見つめてくるゆず。
「もー、しゃあねぇな」
腕に思いっきり抱きついてくるゆずの頭を撫でて、学習委員のある2年3組に向かって歩く。
「失礼しまーす」
教室に入ると、2年の先輩は全員揃っていて、3年と1年がまだらに座っていた。
「ってかろくりん、ペアの子は?」
「え?あー、いいんだよアイツは。そーゆーゆずのペアは?」
曖昧に誤魔化し、ゆずに話題転換のボールを投げる。
「ゆずのペア?あ、かいくんはね、他のクラスの男の子と行くから先に言っててって!」
にっこり笑って言ったゆず。
ちっ…仲間を見つけたかったのに。
そのとき、ガラリと教室のドアが開く。
「失礼します」
うげっ…三嶋!
「六里さん、どうして先に行くの?」
「なんで?一緒に行かなきゃいけないきまりはないだろ」
鋭く返すと三嶋はぐっと唇を噛み締めて。
「凪沢さんと一緒にできなかったから怒ってるの?」
「そーだよ。僕が見たときお前は手を挙げてなかったくせに割り込んできやがって」
ギロリと三嶋を睨みつける。
「それは貴方の判断ミスじゃない?」
「いーや、絶対お前は挙げてなかった!」
「まぁまぁ…2人とも落ち着こ?」
ゆずが割って入ってくる。
「七瀬さん、貴方は入ってこないで」
は?
なんでゆずの名前知ってるんだよ……しかも、お前が喧嘩売ってきたくせに……偉そうにすんなよ!
「お前の言えたことじゃねぇだろ!偉そうにゆずに指図すんな!」
ゆずの前に立って、ゆずを庇う。
「ろくりん……」
「そこまでだ。2人とも落ち着け」
「かいくん…!」
ゆずのペア、石橋海斗が僕を後ろから羽交い締めにしてくる。
「かい…」
「石橋くん」
「とりあえず委員会だ。仲良くしろとまでは言わないから。先輩に迷惑はかけるな」
かいの言葉が、すっと染み込んでいく。
「そーだね…ごめん」
「私もごめんなさい。委員会の間は…一時休戦とします」
そう言ったあと、僕をじっと見る三嶋。
一時休戦、か……上等だ。
受けてたってやるよ。
口角を上げ、三嶋を見返す。
「では、これから委員会を始めます」
委員長の声がかかった瞬間、僕は三嶋にメモと消しゴムを渡した。
「何これ?」
「いーからメモ見ろよ」
三嶋はノートを破っただけの切れ端と言うメモを開く。
『三嶋への挑戦状。今から僕と三嶋が勝負して、僕が勝ったら三嶋は委員会から降りてもらう。三嶋が勝ったら三嶋の言うこと僕が1つなんでも聞く。ルールは今置いた消しゴムを委員会の終わる間までに回し合って、チャイムの鳴ったとき持っていた人の負け。どーよ』
読み終わったらしい三嶋が顔を上げる。
「私優等生なんだけど……?もう、いいわよ」
っしゃ。
「ちなみに時計は見ちゃだめな。その時点で失格!あでも残り20分までは見ていっか」
僕の言葉にふっと笑う三嶋。
「どちらが勝つかしらね?」
「僕だな」
こうして委員会の間に僕と三嶋の勝負が始まった。