俺が財閥系列の会社に就職し、自分の立場を確立していくと、俺の気持ちを知る身近な人たちが密かに協力してくれるようになった。
大学の同期であり、熊野御堂の顧問弁護士でもある桐山法律事務所の後継者、桐山もその一人だ。

桐山は、大学1年で司法試験予備試験、大学2年で司法試験に一発合格した秀才だ。

そんな秀才桐山には、親同士が決めた見合い相手がいた。
見合いなど乗り気ではなかったが、親の顔を立てるためだと割り切って見合いに臨んだそうだが、相手の女性に落ちたのは桐山の方だった。
礼儀正しく、可憐で、とにかく、何もかもが最高なのだそうだ。
初めのうちは、惚気話を軽く聞いている程度だったが、彼女の職業と職場を聞いた俺は、桐山が呆気に取られるほど、質問攻めにした。

彼女の名は美紗都。同い年で、名門女子大を卒業し、CAとしてジャパンエアウェイズで働いている。

まさしくそれは、環奈が辿っている道そのもの。

「なぁ、桐山」

「ん?」

「頼みがある」

「何?」

「彼女に訊いて欲しいことがあるんだ。あからさまにではなく、自然に」

「は?」

桐山はしばらく思案する仕草を見せたが、すぐに興味深げな表情を浮かべた。

「で、何を訊けばいいんだ?」

「花村環奈という女性を知っているか」  

桐山は目を丸くした。すると、クスクスと肩を揺らし始めた。

「な、何笑ってんだよ」

笑いは段々大きくなっていく。

「おい、桐山!」

「すまんすまん。お前からその名を聞くとは思わなかったから」

「は?」

「いい事教えてやる。花村環奈さんは、美紗都の親友だ」