それから俺は、全てにおいて全力で取り組んだ。これから継ぐことになる熊野御堂財閥を守り、環奈を幸せにできる男になるために。


桜子が目指していた大学に進学すると、桃香の熊野御堂家での家庭教師は終了した。桃香には桃香の人生設計がある。その道を邁進する姿は俺を鼓舞し続けた。

桃香が熊野御堂家を去った後も、俺たちは常に連絡を取り合っていた。
環奈にはCAになりたいという目標があること。目標を果たすために高校では陸上部ではなく、ESS部に入ったということ。都内の名門女子大に進学したこと。見事に目標を果たしCAになったこと。
全て桃香が教えてくれた。
一番気掛かりだった異性のことも、包み隠さずだ。

俺が留学で日本を離れていた間は、環奈に悪い虫がつかないよう神にも縋る思いだった。
神がそんな俺の味方をしてくれたのか、大学を卒業するまで、どうやら誰とも交際はしていないようだった。桃香の話によれば、環奈の全てはCAに向いていて、彼氏どころの話では無かったようだ。

とはいえ、時折桃香から送られてくる写真の中の環奈を見る度、俺の不安は掻き立てられた。
初めて会った時から息を呑むほど美しかった彼女が、歳を重ねるごと更に美しくなっていく。彼女の美しさは次元違う。
世の男どもが放っておくはずがない。
環奈の気持ちが他の男にいってしまっては本末転倒だ。しかし、俺はまだ環奈の前に出ていけるほどの男にはなっていないのが現実だった。