その桃香には実の妹がいる。

《花村環奈》 俺と同い年で陸上部。ジュニアの全国大会では、100m女子で入賞するほどの俊足の持ち主。体を動かすことが大好きで、曲がったことが大嫌い。勉強は苦手だが、両親や祖父母を率先して手伝い、花村家では一等星のような存在なのだと、桃香は話してくれた。

桃香が一等星と比喩する存在が、熊野御堂家では、日を追って大きな存在になっていった。
そうなると、実際に会ってみたいと思ってしまうのが人のさがだ。

そこで、近々執り行われる桜子の婚約パーティーに花村一家を招待してはどうかという流れになった。
しかし、桃香の表情は重い。

祖父母は高齢で、長時間の移動は負担がかかり、右も左も分からない家族が、いきなり各界の要人が集うパーティーに放り込まれた時のメンタルを考えれば、容易に受け入れることはできないということだった。

それならばと、お袋が出した案がこうだ。

パーティーには桃香と環奈に出席してもらい、終了後、同ホテル内で家族同士の顔合わせをしたらどうかというもの。

環奈は何事も器用にこなす方なので、付け焼き刃でも教えればそれなりの対応はできるだろうと、渋々ながらではあったが、桃香も了承した。

そしてそれは、俺の見合い話でもあったのだ。

熊野御堂財閥の婚姻は、祖父の代まで家柄を重視してきた。しかし、これから激変していくであろう世界において、家柄だけでは通用しないことが幾度となく出てくることは間違いない。その時に上手く対処できるかどうかが、財閥を守っていく道に繋がるのだと、総帥である祖父は常々口にしていた。
そんな祖父の意向もあり、後継者の妻は、その人の人間性を重視するようになった。
もちろん、身辺調査は必須だ。
実際、俺の母親は一般サラリーマン家庭の出身だ。母親の人間性に惚れ込んだ親父が交際を申し込み、祖父も母親のことを気に入った結果、今がある。

俺と同い年で、祖父が見込んだ桃香の妹が、俺の花嫁候補に上がったというわけだ。