完全包囲 御曹司の秘めた恋心

「こちらです」

彼に手を引かれ向かった先は、競技場全体を見渡せる特別席だった。

「凄い……」

一度は生で見たかった世界大会。こんな形で叶うなんて夢のようだ。

フィールド内では、既に競技が始まっている。世界のトップアスリートが集う会場の熱気は、消えかけていた選手時代の熱を甦らせた。

思わず前のめりになる。

「気に入っていただけたようですね」

「はい!」

「目の輝きが違う」

「す、すみません。つい興奮してしまって」

「喜んでもらえてチケットを手配した甲斐がありました」

「私のためにわざわざ?」

「はい」

「なんとお礼を申し上げたら良いか……ありがとうございます!凄く凄く嬉しいです!」

「環奈さん、お腹は空いていませんか?」

「いいえ、全く。胸いっぱいでお腹も空きません」

「あははっ、面白い理屈だ。でもね、環奈さん、先は長い。今日の最終競技の予定時刻は21時です。まだ4時間ほどあります。腹ごしらえも必要だ」

「そう、ですよね……」

「近くにお店を予約しています。少し早い夕食ですが、付き合ってくれますか?」

「はい、私でよければ喜んで」

「ではさっそく参りましょう」

「はい」