完全包囲 御曹司の秘めた恋心

どれくらい歩いたのかわからない。
ここがどこなのかもわからない。その場にうずくまっていると、やって来た警察官に交番まで連れて行かれた。

氏名、住所、連絡先を訊かれたあと、しばらくすると両親が迎えにやって来た。
家にいるはずであろう両親が何故迎えに来たのかはわからないが、顔を見た途端大泣きしてしまった。
そして黒塗りの車の後部座席に乗せられ、そのまま桃香のアパートに帰って来た。
既に桃香も帰宅しており、顔を見た途端、また涙が溢れ出してしまった。抱きしめられ、涙はもう止まらない。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「怪我がなくてよかった」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「大丈夫よ、環奈は何も悪くない」

「私が悪い。私が田舎者だから、ちゃんとできなかったから、弟から笑われた」

「え?」

「颯介君が私を見て冷たく笑ってた。どう頑張ったって私はオランウータンだから。ごめんなさい、ごめんなさい」

謝り続ける私の頭を、桃香はずっと優しく撫でてくれていた。

その後、パーティーがどうなったのかは知らないままだ。怖くて何も聞けなかった。今でも知らないでいる。ただ、桜子は婚約者と結婚し、二人の子供に恵まれ幸せに暮らしていると桃香が教えてくれた。

桃香は桜子が大学入学を果たすと、自分の就活に専念するため家庭教師を辞めた。それからは熊野御堂家にも年末年始の挨拶意外、足を運ばなくなったようだ。今は宇宙開発に携わる技術者として、我が道を邁進している。結婚はしていない。


パーティーをぶち壊し、桃香に恥をかかせ、せっかく買ってもらったワンピースも駄目にしてしまった。挙げ句の果てに警察に連行されるという、できることなら葬ってしまいたい過去。
私の黒歴史だ。