伊勢谷が走らせるバイクの後ろで、桜は今日一日のことを思い出し、もし伊勢谷があそこにいなかったら、自分は直輝と一夜を過ごしたのだろうかと考えた。
好きな人なら喜ぶのが普通なはずなのに。直輝より家族の顔が浮かんで、帰りたいと思ってしまった。
「ねえ先生」
「何?」
「先生にとって私の彼氏ってどう映りました?」
「さあ。あんな一瞬で他人は判断できないよ。」
「そうですよね……」
「ただ、他人の評価が気になるってことは、神谷があいつに何かしら疑問や不安を抱いているってことだろう。」
「……。」
疑問……不安……直輝に……
分かんない。分かんない。分かんない。
ただ今分かるのは自分の頬を指す風が思ったより冷たくて、それが反対に心地よくて。
桜は無意識に伊勢谷の背中に、自分の額を引っ付けていた。伊勢谷の煙草の香りがふわっとした。
このバイクの音と一緒にどこまでも遠くに走り続けてしまいたいってこと。
もちろんそんなことは叶うはずはなくて
「家に着いたよ。」
そう伊勢谷に声をかけられて、桜はバランスを崩しながらも、なんとかバイクから降りた。

