「送るわ。家まで。」
ついに二人きりになり、伊勢谷は桜に付いてくるように言った。
「えっ?送るって……駅……」
駅とは逆方向に歩き出す伊勢谷の後を桜は慌てて追いかけた。
伊勢谷はショッピングモールの裏側の駐輪場に向かい、一台の漆黒のバイクからヘルメットを取り出し桜に渡した。
「本当はこういうのダメなんだけど、時間が時間だから。」
「……。」
「家まで道案内しろよ。」
戸惑う桜に、伊勢谷はガタガタと駐輪場からバイクを出し、馴れた手つきでヘルメットをかぶる。
「あの先生、家に電話してくれて……」
「それは困るんじゃないの?俺が電話したらあの男と別れることになると思うけど。」
「……ごめんなさい。」
伊勢谷は足をかけるところを桜に指示し、弾みをつけてバイクに跨るように伝えた。
「あ、でもその前に……」
桜が頭の中で乗り方をシュミレーションしていると、ばさりと頭に黒いパーカーがかぶさった。それは伊勢谷が今までTシャツの上に着ていたものだった。
「それ着て。いくら6月だからって、そんな薄着だと風邪ひく。」
「えっ?えっ?でもそれじゃあ先生が風邪ひきます。」
「俺は男だから大丈夫。ほら、早くして。10時までに家に帰れなくなる。」
伊勢谷に急かされて、桜は言われるままにパーカーを羽織り、伊勢谷の後ろにまたがった。

