「あー疲れた。」
直輝が電車に乗るのを見送った伊勢谷はポケットからタバコを取り出し口にくわえた。
「あの先生……」
桜が遠慮気味に近付くと、伊勢谷は困ったような顔をして、肩にかけた鞄からハンドタオルを一枚取り出した。
「あっ……」
「何でこう毎回プライベートで会うかな。勘弁して欲しい。」
伊勢谷が差し出していたのは、以前桜が貸したハンドタオルだった。
「遅くなってごめん。返すタイミングを探していつも持ち歩いていたたんだけど、なかなか渡せなくて。」
「先生、嘘ですよね。生徒指導だなんて。」
「嘘だよ。でも仕方ないだろう。自分とこの生徒があんなに嫌がってる姿を見たら、放置できないし。」
伊勢谷が鞄からライターの火を取り出して点けた時だった。
「あー!千鶴ちゃん!またタバコ吸ってる!」
と、5歳ぐらいの髪をふたつぐくりにした女の子が走ってきて、伊勢谷の足に飛びついた。
「うるさい。ガキは黙ってろ。」
伊勢谷が適当にあしらうのを見て、桜は思わず
「隠し子……?」
と言ってしまい、しまったと思った。
「先生、私、誰にも言いませんから!先生にその……お子さんが……」
「違うよ。何言ってんの?」
もう今日は厄日だなと言いたげに、伊勢谷はため息と一緒にタバコの煙を吐いた。

