「とりあえず時間切れなんだよね。」
伊勢谷はわざとらしく腕時計を直輝に見せつけた。時間は午後9時を過ぎたところだ。
「高校生は10時にはお家に帰らないと、補導対象になってくるからね。今から電車に乗ってもギリギリ10時に家に着くかどうかだし。」
「なんだよそれ。彼氏と一緒ならいいだろ。俺は未成年じゃないんだし。」
「残念だけど、保護者の方ならいいんだけど、彼氏なんて所詮は他人だからね。」
「……だいたいあんたが桜の学校の先生だって証拠はあんのかよ?」
伊勢谷は面倒くさい男だなと言いたげに、小さくため息をつくと財布から身分証明書を取り出した。
それは学校から配布されている社員証のようなカードで、本人の顔写真と学校名が記載されていた。
完全に分が悪くなった直輝は、後ろに隠れる桜に矛先を変えた。
「桜、いいのかよ!このままで!」
「な、直輝、でもここで私が直輝と一緒になったら、学校の生徒指導に挙げられて、しばらく自宅謹慎になって、会えなくなっちゃうよ。」
桜は必死にバレないように言葉を選んで紡いだ。多分、伊勢谷が生徒指導に問題として挙げるわけはないだろう。
だって、彼がここにいるのも生徒の見回りのはずじゃないから。

