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土曜日の昼に桜は彼氏の直輝と約束していたので、朝10時から自室で支度を始めた。
部屋には菫もいた。どうしても服が決まらなくて、桜は菫を招き入れたのだ。
これも中学校から、桜がデートをするときの恒例行事で、菫は相手が直輝であろうと、嫌な顔はせずに付き合ってくれた。
むしろ菫から
「今日は選ばなくていいの?」
と聞いてくれたので、喜んで菫を招いたのだが。
最近、菫とぎくしゃくしているような気がしていたから、桜はいつも通りに心の底から安心していた。
「どれがいいと思う?ふたつ悩んでるの。」
一枚はミントグリーンの春ニットのワンピース。腰のところにセット品の白いベルトを巻く。
もう一つはベビーピンクのブラウスに紺色のハーフパンツ。ブラウスはシースルーの素材で中に付属のインナーを着るようになっていた。
「どこ行くんだっけ?」
「水族館。」
「じゃあこっちかな。春ニットはさすがにもう暑いだろうし。」
菫はベビーピンクのブラウスの方を手にした。
「それであの白いスニーカーを履いたら、歩くのがしんどくなる心配とかもないし。」
「わーい。ありがとう、菫ちゃん。」
桜は菫に飛び付きぎゅーっと抱きしめた。
「はいはい。重たいって。そういえば、あんまり遅くなるんじゃないわよ。お父さんが心配するから。」
「分かってる。」
と言いながら、桜は直輝に泊まることを断ることができていなかった。
怒らせるのが怖くて、拒否して嫌われるのが怖くて、「また今日の帰りに返事をする。」と答えてしまっていた。

