母親は桜の作ったシチューを「美味しい!桜のご飯はやっぱり最高ね!」と褒めちぎり、ビール片手に頬張っていた。


桜はその横で菫と並んで、英語の教科書を広げていた。明日は二人とも同じところが授業にあたっており、予習するところも同じだった。


「菫ちゃん、ここの最後の英語訳分かった?今日の授業のやつ、難しくて。」

「そこねぇ……」


菫がノートを広げたら、そのノートの端に菫の筆跡とは違う字が書かれていた。


メッセージ交換アプリのIDと[またご飯行こうね。]という文字。


「菫ちゃん……これ……」


桜は見覚えのあるIDと筆跡だとすぐさま気付いた。


「あのバカ……」

「菫ちゃん……今日、誰とご飯に行ったの?」

「桜、ごめん。私、先にお風呂入る。英訳は後で教えるから部屋で待ってて。」


隠すように乱雑に菫が教科書やらノートを閉じる姿に、桜は答えなんて聞かなくても、相手が誰か察しがついていた。


でも、どうして秘密にするんだろう?


私、何も誰にも言わないのに。