「そんな不審者見るような顔しないでよ。俺たち同級生だよ?」
「同級生だよとか言われても、ちょっと誰かわからないです。」
自分は分からないのに、相手は自分のことを知っているというのも変な話だ。
「俺、松田猛っていうの。成海と同じクラスで、成海の幼馴染みです。」
菫はゴンっとタライが再び降ってきたような感覚に見舞われた。それと同時にどうりでと思った。
「あの、そのすーちゃんっていうのやめてください。」
「成海はいいのに?」
「あれは私が望んだわけじゃないから。」
菫はポンと猛にサッカーボールを投げて渡した。早く話をつけて、練習に戻ろうと思っていた。
「まぁ、俺もすーちゃんって呼ぶのは、成海に禁止されてるんだよねー。」
「なんで?」
「俺がつけた呼び名だから、他の人には使って欲しくないんだって。」
……何それ……
「あいつ、見た目と違って、気に入った子は簡単に手放したりしないから。だから、色々頑張ってね、神谷さん。」
菫が答える間もなく、なぜだか一人上機嫌の猛はリフティングをしながら、グラウンドに戻っていってしまう。
菫は今日何度目かの溜息をついた。成海の友達だから?成海に似て勝手に話を進める変な人だ。

