走っていれば、菫は気になることや心のモヤつきも全部忘れられた。ずっと走り続けて、このまま遠くまで行けたらいいのにと、よく思ったものだ。
なのに今日は……
「危ない!」
と叫び声が聞こえて、菫の目の前をサッカーボールが空中を舞いながら通過した。
……ギリギリセーフ……てか、どこ蹴ってるのよ。
菫はを練習中断して、自分の目の前を通過していったボールを拾いに行った。
グラウンドは陸上部以外にもサッカー部や野球部、ソフトボール部などが練習していて、よその部活のボールが飛んでくるのは日常茶飯事ではあった。
公立高校のグラウンドなんて、余程のことがないとこんなものだと、菫もこの一ヶ月半で理解していたので、今日もギリギリぶつからずにすんだ。
菫がひょこひょことボールを取り、持って帰ってくると、蹴った張本人が後から付いてきていた。
「迷惑かけてすみません……あ、てかすーちゃんじゃん!」
ゴンと菫の頭の中にタライが落ちて、鈍い音を立てたような気がした。
すーちゃん二人目……だけど誰この人?
背番号の入った青いTシャツに黒いサテン生地のハーフパンツとハイソックス。
パーマを緩くあてた髪を耳のあたりで切り揃えている。くりっとした二重と笑った顔が可愛らしい。
多分、化粧したらそのへんの女の子より可愛い……でも、誰この人?

