朝ご飯は中学に入った頃から二人で食べるようになった。


「中学生になれば自分のことは自分でできるでしょう。」という母親の考えから、母親はフルタイムで仕事を入れるようになり、二人で過ごす日が増えた。


料理は、もともと母親の料理を手伝うことが好きだった桜が担当し、洗い物や洗濯物は菫が担当していた。


「菫ちゃん、今日も部活?」


桜はワンプレートに盛られた目玉焼きに箸を入れる。少し箸を触れるだけでトロリと黄身が流れ出す。今日の半熟具合も完璧だなぁと桜は一人ほくそ笑む。


「今日は部活の前に委員会だよ。」


菫も桜と同じように、目玉焼きに箸を入れ頬張る。


食べながら「今日も美味しいよ。」と、桜に伝えることを菫は忘れない。


「菫ちゃん、学級委員長になったんだっけ?」

「そうだよ。」


中学校のときも三年間学級委員長だった。


「菫なら安心!」と言われ、周りからの後押しで学級委員長をしていた。


その言葉が菫自身、自分の存在を感じられて、委員長は進んでしていたところもあった。


「高校に入ってもみんなに信頼されているんだね。」

「どうだろ?担任が頼りなくてね。でも、クラスの子達とは委員長になったおかげで、親しくなれたよ。」

「そっか。」



なんだろう……



桜は一瞬、菫を遠くに感じて胸のあたりがキュッとなった。菫ちゃんが自分だけじゃなくてみんなの頼りになる人になっている。


「あ、菫ちゃん!私のクラスの学級委員長、宮田成海(ミヤタナルミ)くんっていうから。かっこよくて、優しくて面白くていい人だから、絶対仲良くなれると思うよ!」


「委員長、男なの?」


嫌そうな顔をして菫は紅茶を飲む手を止めた。菫は桜に比べると、あまり男の子と話すことを好まない。


委員長という仕事があれば、用事を伝えたりして話すが、それがなければ話すことはほとんどなかった。

宮田くんなら菫ちゃんでも話しやすいと思うんだけどなぁ。

と、桜は思ったが、それは口にはせずに残りの目玉焼きを平らげた。

あと15分もしたら、菫と一緒に家を出る時間だった。