修学旅行で美術館を見学していたエヌ未は仲間たちをはぐれてしまった。方向音痴な彼女は迷路のような建物で現在位置が分からなくなり、案内板を見ても自分がどこにいるのか分からず、途方に暮れていた。
「どうしよう? 美術館のスタッフさんはいないかな……」
 誰かに道を訊きたくてもエヌ未の他に客の姿はなく、美術館に勤める職員も見かけない。
 うろうろ歩いていたら、向こうの展示室に人影を見かけた。
「あっ、すみませ~ん! ちょっとお尋ねします! わたし道に迷っちゃって……あれ?」
 声を掛けたのは何のことはない、展示された彫刻の石像だった。それを人間と見間違ったのだ。
「うわ、恥ずかしい」
 自分でも呆れて独り言を言ったら、誰かが笑った。
「えっ、誰の声?」
 エヌ未は声の主を探した。しかし、人の姿は見えない。
「やだ、怖い……」
 怯えるエヌ未の近くで少年の声がした。
「怖がらないで、道を教えてあげるだけだから」
 声がした方を見る。誰もいない。ただ、展示された彫刻の石像があるだけだ。
「え?」
 美しい少年の姿をした彫刻の石像がギギギと動いた。右手を展示室の反対側へ向ける。
「展示品の陰になって見えないけど、向こうに廊下があるから、そこから出られるよ」
 とても優しい口調だったが、それでもエヌ未はパニックを起こした。声にならない悲鳴を上げ、教えてもらった出口の反対側へ走り出す。そして、そこに運悪く現れたスポーツ万能のイケメン天才同級生男子と激突した。
「うわっ!」
 脳に喰らった激しい衝撃で神経の接続に異常が生じたスポーツ万能のイケメン天才同級生男子は、そのショックでエヌ未を深く愛するようになってしまった。『修学旅行×ラブハプ』である。
 いや、そればかりではない。少年の姿をした彫刻の石像がエヌ未に興味を抱き人間の姿になって転校してきたのだ。人間ではない美しい男子転校生に激しく求愛され、エヌ未はまたもパニック寸前である。
 以下、次号。