強いて言うなら演劇の魅力を吹き込んだことになるが、それが結婚につながるとは思ってもみなかった。
もじもじするばかりの私に代わって、貴博さんが更に言葉を重ねる。
「これは俺の精一杯の親孝行でもあると思ってる。正直、深雪と出会うまでは誰とも結婚するつもりはなかったから」
「貴博、どういう意味?」
「言葉のまんま。俺がお見合い相手に一切興味が持てなかったこと、本当は気付いてたんだろう?」
文乃さんの顔がみるみるうちに赤く染まり、その鋭い視線は彼ではなく私に注がれた。
「この――」
続く罵倒のフレーズを彼女は必死で呑み込んだ、ように見えた。衝動のまま怒りをぶちまけるようなことはしないと自分を律している。そういう気高さというか、矜持のようなものを感じた。
さすが、性格が悪くても性根はまっすぐな貴博さんを育てた母親だ。
「そういうことなら、越智さんはさぞかし家庭的なお人なんでしょうね?」
「へ?」
「貴博が突然結婚する気になるなんて、ひょっとして胃袋でも掴んだのかしら? あなた、得意料理は?」
文乃さんから、思いがけないことを聞かれた。
「それは……」
いや、思い至っておくべきだった。私はお嫁にいこうとしているのだから。
自炊のための簡単な料理ならできなくもない。もっと繊細な洋菓子だって――ケーキもプリンもシュークリームも――父のおかげで作ろうと思えば作れる。
もじもじするばかりの私に代わって、貴博さんが更に言葉を重ねる。
「これは俺の精一杯の親孝行でもあると思ってる。正直、深雪と出会うまでは誰とも結婚するつもりはなかったから」
「貴博、どういう意味?」
「言葉のまんま。俺がお見合い相手に一切興味が持てなかったこと、本当は気付いてたんだろう?」
文乃さんの顔がみるみるうちに赤く染まり、その鋭い視線は彼ではなく私に注がれた。
「この――」
続く罵倒のフレーズを彼女は必死で呑み込んだ、ように見えた。衝動のまま怒りをぶちまけるようなことはしないと自分を律している。そういう気高さというか、矜持のようなものを感じた。
さすが、性格が悪くても性根はまっすぐな貴博さんを育てた母親だ。
「そういうことなら、越智さんはさぞかし家庭的なお人なんでしょうね?」
「へ?」
「貴博が突然結婚する気になるなんて、ひょっとして胃袋でも掴んだのかしら? あなた、得意料理は?」
文乃さんから、思いがけないことを聞かれた。
「それは……」
いや、思い至っておくべきだった。私はお嫁にいこうとしているのだから。
自炊のための簡単な料理ならできなくもない。もっと繊細な洋菓子だって――ケーキもプリンもシュークリームも――父のおかげで作ろうと思えば作れる。
