スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

「深雪って、こういう顔がタイプだったんだな」
「ちょっと!」
 強引にスカウトした以上、決して否定はできない。できないけれど……何も本人の前で指摘しなくてもいいではないか。
 あまり噛みついても仕方ない。役者も揃ったので本題に入ろう。
 そのためにもまずは客席に置いてあった椅子を舞台上にぐるりと並べ、円陣を組んでいく。他の団員たちも、来た順に適当に輪に加わってもらう。
「では――」
 今回の脚本『結末が決められない』はとある小説家志望の夢と現実を描く、少々抽象的でメタフィクショナルな作品である。
 主人公のモデルが私自身であることは想像に難くないだろう。ただ、脚本家には一緒に舞台を作り上げる仲間が必然的に生まれてくるので、本作では執筆がより孤独になる小説家を採用した。
「夢見るアラサー女子、ユメを演じるのが奈央子です」
 貴博さんに改めて紹介すると、彼は小首を傾げてこちらを伺う。
「深雪じゃないの?」
 劇団の慣習に倣っただけだろうに、名前で呼ばれたことにドキリとした。
「私は脚本家なので。舞台に立つこともありますけど、基本的には客席から見て演出を考えたいんです」
「へえ」
 気のない返事に、奈央子がぷりぷりしてみせる。
「何ですか、私じゃ不満ですか?」
「……というか、ガキっぽくないか?」
「な!」
 わざわざ一番グサリと刺さる言い回しをしなくても。