見上げれば、熱っぽい視線が突き刺さる。
 その目が私の反応をつぶさに観察し、更なる快感を引き出そうとする。
「だ、だめ……」
 うわ言の拒絶は拒絶になっていなかった。むしろ相手を煽ったようで、しつこいくらい丁寧に指での愛撫が続く。
「貴博さん。もう」
「うん?」
 怖いくらいに気持ちいい。けれどもこのまま貴博さんの手によって、一人で達してしまうのは、嫌だ。
「い、一緒に……貴博さんが、欲しい」
 喘ぎながら縋ると、一瞬、彼の手が止まる。
「深雪」
 貪欲に彼を求めるこの身体に、応えるように貴博さんが身体を沿わせた。今度はもっと深いところでつながっていく。
「一緒にいこう」
 その言葉にうんうん頷きながら、私は彼にしがみついた。
 再び、彼が動き出す。
 初めはゆっくりと、次第に激しく抱き合い、共に高みへ昇りつめていく。そして次の瞬間――私たちはふわりと恍惚の淵に沈んだ。
 そのまま二人で、ベッドに倒れ込む。
「ほらな」
 息を弾ませながら、貴博さんが耳元でささやいた。
「……え?」
「深雪のこと、抱けただろう」
 何を今更、と働かない頭で考える。
 抱ける……抱けた……ひょっとしてこの男は、私を抱きたいわけではなくて、恋愛に不向きな自分でも結婚生活の義務は果たせると主張しているのだろうか。考えてみれば一連の行為は、貴博さん自身よりも私の欲望を満たすものであった……ような気がする。