「そんな役回り、こっちから願い下げですよ」
相手が社長であることも忘れ、私は啖呵を切るように席を立っていた。
経理部に戻った私が業務上の問題はなかったことを伝えると、部長は黙って頷くだけで仔細を尋ねてはこなかった。私の「個人的なこと」には単純に興味がなかったのか、面倒を察知して避けたのかは分からないが、どちらにせよ可もなく不可もない部下の存在にこれ以上注力するつもりはないらしい。
そうしてようやく自席に腰を落ち着けることができたが、仕事が手に付かないまま私はぼんやりと考え事をしていた。
社内での存在感を鑑みれば、きっと社長の言う通り、中身のないプロポーズを断ったくらいで自分の立場が悪くなることはないだろう。上手く隠せばこの部屋の誰にも気付かれないままことは終わる。
だが、脚本家の思考回路が無駄にドラマチックな展開を妄想する。もし誰かの陰謀で副社長をスカウトしたことや社長に啖呵を切ったことがバレたなら――。
「退職願でも書くかなあ」
「ついに脚本家業に専念するのか?」
「……え?」
気付けば傍らに貴博さんが立っていた。何故、堂々と会いに来る?
「書きませんよ!」
「あ、そう」
こちらの戯言を受け流し、彼はしれっと自分の要件を切り出してきた。
「深雪、ちょっといいか?」
相手が社長であることも忘れ、私は啖呵を切るように席を立っていた。
経理部に戻った私が業務上の問題はなかったことを伝えると、部長は黙って頷くだけで仔細を尋ねてはこなかった。私の「個人的なこと」には単純に興味がなかったのか、面倒を察知して避けたのかは分からないが、どちらにせよ可もなく不可もない部下の存在にこれ以上注力するつもりはないらしい。
そうしてようやく自席に腰を落ち着けることができたが、仕事が手に付かないまま私はぼんやりと考え事をしていた。
社内での存在感を鑑みれば、きっと社長の言う通り、中身のないプロポーズを断ったくらいで自分の立場が悪くなることはないだろう。上手く隠せばこの部屋の誰にも気付かれないままことは終わる。
だが、脚本家の思考回路が無駄にドラマチックな展開を妄想する。もし誰かの陰謀で副社長をスカウトしたことや社長に啖呵を切ったことがバレたなら――。
「退職願でも書くかなあ」
「ついに脚本家業に専念するのか?」
「……え?」
気付けば傍らに貴博さんが立っていた。何故、堂々と会いに来る?
「書きませんよ!」
「あ、そう」
こちらの戯言を受け流し、彼はしれっと自分の要件を切り出してきた。
「深雪、ちょっといいか?」
