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 劇団カフェオレの稽古場兼倉庫は東京の郊外、閑静な住宅地に埋もれるようにして建っている。稽古場と呼んではいるものの、設備としてはだだっ広いワンルームと説明した方が分かりやすいだろう。アマチュア劇団に常設のスタジオを借りる金銭的余裕はない。
「それって、完全に趣味でやってるからってこと?」
「まあ、はい」
 実は今も節電のためにちょっと寒さを我慢している。人が増えて活動が始まれば温まってくるから、冬はまだいい方だろう。
「お金もそうですけど、演劇に使える時間はせいぜい週末とアフターシックスだけですし」
「会社員じゃん」
 その通り。平日の私は、何が何でも定時で帰ろうとするただの事務職員である。
「それでもお金と時間と労力を出し合って舞台を立てちゃうところが、みんな演劇フリークなんですよね」
「演劇フリーク、ね」
 暗幕で囲まれた簡易な舞台に立って、彼は苦笑した。その姿にまた惚れ惚れしてから、はたと我に返る。
「もちろんそこまで求めませんよ。なんならこっちがギャラを出します」
「いや、別に要らない」
 ひらりと断るこの男はいったい何者なのだろう。先程から気になってはいるのだが、盗撮の前科のせいでどうしても質問することにためらいが生じる。
 どう話をつなげようかと考えあぐねていると、背後からバタバタと足音が響いた。