創作活動が茨の道であることは、貴博さんならもう十分理解しているだろうに。
「三重苦の泥沼に嬉々としてハマってる女に反論されてもな」
「それは本番っていうご褒美が待ってるから。お金もコネも何もないところからプロの脚本家になろうと思ったら、まずはシナリオ大賞に応募するところから始めることになる。受賞するまで何本も自分の脚本が闇に葬られることは目に見えてるのよ」
 実は今回の公演では、小説家志望であるユメの執筆活動に関して「ネット投稿」という手段をやんわりと回避している。
 小説は書き上げた時点で作品として完結する。更に現代であれば、世に出すところまで簡単にできてしまうが、脚本だとそうはいかない。演劇や映画のシナリオはあくまで設計図であり、完成した作品を世に出すには結構なお金と時間と労力が掛かるのだ。
 だから私をモデルにして生まれたユメには、新人賞を取って自分の小説が書籍化されるまでデビューはできないという、ちょっと古い小説家像を追わせていた。
「アマチュア劇団の脚本家なら身内のノリで企画を成立させられるし、どんなに大変でも最終的には楽しくやっていける自信がある。でもこれを仕事にしようとした途端、大好きだった演劇が辛くてしんどくて大嫌いになりそうじゃない?」
「そんなの、やってみないと分からないじゃないか」
 貴博さんの言葉はヒロの台詞にぴたりと符合する。
「まあ、そうなんだけどね」