貴博さんの台詞が、私自身にグサグサ刺さる。現実に向き合うと同時に筆を断つこの結末を、彼が気に食わないでいることは稽古の時点から明らかだった。
 それでも筆を折ることにした一番の理由は、やっぱりヒロだ。
 彼がいる限り、ユメは大人になれそうもない。ヒロはあと一歩頑張らねばいけないような時にも即座に彼女を甘やかしてしまう。この度の原稿ですら、書き上げられたのはミノルへの対抗心が大きかった。
 ヒロはユメが小説を書くために生み出した存在だ。書くことをやめれば、きっと消えていなくなるだろう。
「そっか」
 全てを悟った彼は、最後にギュッとユメを抱きしめる。冒頭とは対照的に正面から抱き合って、二人ははっきりと視線を、心を通わせた。
「でも忘れないで。君の本質は小説家だからね。いつか絶対にまた書きたくなるし、そこから目を背けたら今度は自分に嘘をつくことになる」
 ヒロの、貴博さんの言葉からは自分で書いた台詞以上のものを感じた。それは彼がこの二ヶ月演劇に真摯に取り組んで、創作に生きて何が悪いと思ってくれているからに他ならなかった。
「くだらない現実のせいで君の心が壊れそうになったら、絶対僕が助けにいくからね」
「うん、ありがとう」
「……え?」