本番は土日の昼夜二公演ずつ、そのためにスタジオは木曜から月曜の五日間借りる。
 しかしこの情報はギリギリまで貴博さんには黙っていた。本番前に当然のように有給休暇を取得する泥沼に引きずり込む気はなかったし、実は普段であれば金曜の夜から五回公演のところを彼のためにゲネプロ(要するにリハーサル)を金曜の昼から夜に移動させたことも、絶対に知られたくなかった。
 というわけで、木曜の夜に貴博さんがスタジオに現れた頃には、舞台はあらかた出来上がっていた。
 黒いパネルと床に囲まれ、稽古場からお馴染みの箱型の椅子を二つほど設置し、基本的に見立てで芝居を行う抽象度の高い舞台である。シンプルな分パネルの継ぎ目やはけ口の見切りなど、美術班は細部の見映えにこだわってくれていた。
 客席は段差をつけて一列に十三脚、合計五十二席分のパイプ椅子を並べる予定だが、今は椅子を脇に寄せて制作が絶賛パンフレットの折り込み作業中だ。更には音響や照明機材の確認作業が続いているけれど、この辺りの采配は私より舞台監督に任せた方が効率的なので、私は貴博さんと共に楽屋に入った。
 こちらは壁際に鏡と会議室用の長机が備え付けられており、反対側は衣装と小道具と私物が山積みにされ、隅には洗面台が設置された三畳ほどの小部屋である。