『まあ信じて待つしかないか。貴博くんの代役は考えられないだろう?』
「ですね」
私はもうあのイケメンに出会ってしまった。出会う前には戻れない。
『……つまり、奈央子の代役なら考える余地があるのか』
「へ?」
『冗談。でも、本当に考えてくれると嬉しいな。昼休みに連絡したのは、他の団員がいないところで先に相談しておきたかったからだし』
そうだったのか。
勇也さんは舞台監督である。公演を行う上での諸々を調整し、稽古場を回してくれている。自分のことで手一杯で、時に突っ走り時にふさぎ込む脚演の私にとって、なくてはならない存在だ。
「お仕事中にわざわざすみません」
『いや、深雪も仕事中ではあったでしょ』
「私の仕事は、どうせほとんど単純作業なので」
経理部の下っ端は、伝票を打って判子を押したりもらったりしているだけで一日が終わる。区切りのタイミングさえ見誤らなければ、大概定時で引き上げられるのがこの仕事の最大の美点である。
『いまだに演劇に全振りしてるもんな。大丈夫? 職場にちゃんと友達とかいる?』
薄々分かった上で勇也さんが問うてくる。職場に友達がいて仕事を楽しいと感じている人間は、あんな脚本は書かないのだ。
「友達がいないと困るんですか? 私、プライベートはめっちゃ充実してるつもりですけど」
『うーん。せっかく舞台を立てたのにお客様が呼べない、とか?』
それは確かに、困るかもしれない。
「ですね」
私はもうあのイケメンに出会ってしまった。出会う前には戻れない。
『……つまり、奈央子の代役なら考える余地があるのか』
「へ?」
『冗談。でも、本当に考えてくれると嬉しいな。昼休みに連絡したのは、他の団員がいないところで先に相談しておきたかったからだし』
そうだったのか。
勇也さんは舞台監督である。公演を行う上での諸々を調整し、稽古場を回してくれている。自分のことで手一杯で、時に突っ走り時にふさぎ込む脚演の私にとって、なくてはならない存在だ。
「お仕事中にわざわざすみません」
『いや、深雪も仕事中ではあったでしょ』
「私の仕事は、どうせほとんど単純作業なので」
経理部の下っ端は、伝票を打って判子を押したりもらったりしているだけで一日が終わる。区切りのタイミングさえ見誤らなければ、大概定時で引き上げられるのがこの仕事の最大の美点である。
『いまだに演劇に全振りしてるもんな。大丈夫? 職場にちゃんと友達とかいる?』
薄々分かった上で勇也さんが問うてくる。職場に友達がいて仕事を楽しいと感じている人間は、あんな脚本は書かないのだ。
「友達がいないと困るんですか? 私、プライベートはめっちゃ充実してるつもりですけど」
『うーん。せっかく舞台を立てたのにお客様が呼べない、とか?』
それは確かに、困るかもしれない。
