どういうわけで?
「すぐに結婚式でするでしょう。誓いのキス」
「だって人目があると深雪、芝居のスイッチ入るだろ?」
 あの千秋楽の舞台でも、貴博さんからすれば私はオンの顔して「ドンとこい」とばかりに構えていたらしい。
「結婚式はそれでいい、どうせ神様に見せつけるためのキスだから。でも俺は今、ウェディングドレスを着て最高におめかしした深雪と、普通にキスがしたい」
「最高におめかししたって」
 やはり貴博さんの愛情表現はストレートにして独特だ。そして私がいいと答える前に、そっと唇を重ねてしまう。
 唐突な幸せの味に、くらりときた。
「ちょっと貴博さん!」
「別にいいじゃん、減るもんじゃないし」
 焦る私を見てまた「可愛い」と呟くのだ。
「そういえば深雪、めちゃくちゃ面白そうな企画を俺に隠してただろう?」
「何急に?」
「舞台の上で結婚式をやってみたかったって、昨日勇也から聞いた」
「!」
 まったく、あの人はもう。
「そんなこと、できるわけないでしょう」
「まあ今更ないとは思うけど、検討に値する案でもあったと俺は思うぜ?」
 そしてこの人も本当に物好きだ。そういう男に惚れてしまったのだから仕方ない。
「あの、貴博さん」
「うん?」