「でもごめん。俺はやっぱり深雪の全部が欲しいみたいだ」
「……どうして謝るの?」
「だってウィンウィンだったはずが、自分に都合のいいことばっかり」
 本気で言っているのか。うん、きっと本気なのだろう。
 貴博さんの胸にしがみついたまま、私は不安げに俯く彼の顔をそっと見上げた。
「私の方こそ、前にプロポーズされた時は都合が良すぎて申し訳なくなっていたじゃない?」
「うん?」
「都合がいいのはパトロンのことじゃない。いや、それもあっただろうけど……貴博さんが、好きな人が自分と結婚したいと言い出したからそう思ったの。メリットとデメリットを示唆してプロポーズするくらい、恋愛には興味なさそうだったのに」
 彼が私を求めてくれるなら、今度こそウィンウィンで需要と供給は一致している。
「全部欲しがってくれていいの。そしたら私も全部あげたい」
 現実的にそれは無理だと、頭でっかちな私たちはつい考えてしまうのだろう。けれどもまずは素直な気持ちを伝えた上で、理想に向かってすり合わせていけばいい。
「だって私たち、結婚するんでしょう?」
 貴博さんはまたしても想定外だと言わんばかりの反応を見せた。パチパチと瞬きを繰り返し――やがて満面の笑みを浮かべた。