スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

 それにしても――本当のマイペースはのんびりでもせっかちでもなく、どこまでも自分のペースを崩さない人なのだと実感する。
「深雪」
「は、はい」
 徒然と思考を巡らせているうちに貴博さんが目の前に立ち、スッと白い小箱を差し出した。得意の直球勝負で、一番ベタな演出でパカッと開いてみせる。
 中には指輪が鎮座していた。
「改めまして、結婚しよう」
「……うわ」
 キラリと光る宝石――まず間違いなくダイヤモンドだろう――を見つめ、私は思わず息を呑んだ。
 こんなベタな展開があるだろうか。
「うわって何だよ」
 貴博さんが口を尖らせる。確かに今のは、私の反応が悪かったかもしれない。
「ごめん。でも、気持ちは嬉しいけど……私まだご家族に結婚を反対されてる状態で」
「ついさっきお許しが出た」
「え?」
 麗さんを追いかけるために飛び出した私を追いかける直前、彼は母親から「好きにしなさい」と告げられたらしい。
「その前から家庭教師としての評判が伝わってきてたしな。俺の知らないところで弟と会ってるのは、かなり複雑だったけど」
 思いのほか私がやる気だったこと、東大卒の肩書に文乃さんが期待していたことから、むやみに口は出さないでおこうと我慢したそうだ。
「でも貴晴はああ見えて俺より性格悪いから……ちゃんと深雪は俺の婚約者だって分からせておきたかった」