その言葉を最後に、今度こそ彼女は去っていた。後ろ姿を眺めているとドッと力が抜けていく。
「……怖かった」
「怖かったの?」
ふとこぼれ落ちた言葉を、貴博さんはまた鼻で笑うように突っ込んでいた。
まったく、この鈍感男は。
「そりゃ、純粋な恐怖ではないけどさ」
この何とも言えない緊張感や切迫感から解放された感覚を、声に出したらそうなったのだ。
「やっぱり既成事実でゴリ押そうとしても、上手くいかないものだよね」
「うん?」
「いや、前に貴博さんも似たようなことを口走っていたけれど、奈央子が先に籍だけ入れるとか式だけ挙げるとか、既成事実を作って結婚を推し進める案を出してたのよ。でも、私はなんか違う気がして」
文乃さんから反対されて臆病になっているだけかもしれないが、やはり結婚式というものはきちんと周囲に認められ、祝福されながら挙げたいと思う。
「へえ」
彼は私の腕をグイと掴むと、そのまま外へ飛び出した。
「じゃあ、行こうか」
「え? ちょっと貴博さん!?」
ニコリと微笑む横顔は、ヒロインを奪いにきた恋愛ドラマのヒーローのそれだった。
「……怖かった」
「怖かったの?」
ふとこぼれ落ちた言葉を、貴博さんはまた鼻で笑うように突っ込んでいた。
まったく、この鈍感男は。
「そりゃ、純粋な恐怖ではないけどさ」
この何とも言えない緊張感や切迫感から解放された感覚を、声に出したらそうなったのだ。
「やっぱり既成事実でゴリ押そうとしても、上手くいかないものだよね」
「うん?」
「いや、前に貴博さんも似たようなことを口走っていたけれど、奈央子が先に籍だけ入れるとか式だけ挙げるとか、既成事実を作って結婚を推し進める案を出してたのよ。でも、私はなんか違う気がして」
文乃さんから反対されて臆病になっているだけかもしれないが、やはり結婚式というものはきちんと周囲に認められ、祝福されながら挙げたいと思う。
「へえ」
彼は私の腕をグイと掴むと、そのまま外へ飛び出した。
「じゃあ、行こうか」
「え? ちょっと貴博さん!?」
ニコリと微笑む横顔は、ヒロインを奪いにきた恋愛ドラマのヒーローのそれだった。
