確かに彼は恋愛には向かない男で、恐ろしいまでの合理主義者である。そういうことには興味がないと私も決めつけてしまったことがあるため、荒唐無稽で都合の良すぎる考えにも、彼女なりの筋が通っているように感じた。
「実は深雪さんにぞっこんだったみたいだけどね。でももし……誰にも必要とされなかったこの子がササメの跡取りになったとしたら、傑作だったと思わない?」
 麗さんは力なく微笑んで、これにてお見合いも終了だと告げた。それ自体は誰も異存ないだろうが――。
「やっぱり堕ろすしかないのかしらね」
 気丈に振る舞っていた彼女が淋しげに腹部に触れる姿に、黙っていられなかった。
「……誰にも必要とされない、ってことはないんじゃないですか」
「え?」
「少なくとも麗さんは、その子のことを大事に思っているわけでしょう」
 愛のない縁談を成立させるために、とんでもないはったりをかますほどに。
「さっき貴博さんに詰め寄ったみたいに、その男のところに養育費をふんだくりにいけばいいじゃないですか」
「だって」
 麗さんが戸惑い、尻込みしている。好きな人に迷惑を掛けたくないという、急に乙女な部分が垣間見えた。
「……彼、結婚してるの。その家庭を壊すわけにはいかないの」
「でしょうね」