「とんでもないお見合い相手だな」
　彼は呆れたように呟いたが、逆に麗さんは笑っていた。
「よく言うわ。あなたのワガママのせいでお母様は経済界をスパッと諦めて、全く伝手のない芸能界でお見合い相手を探すことになったのに。あなた、自分が相手を振っているつもりだったろうけど、実際は随分と振られ続けているのよ」
　それはそうだろうな。と、危うく頷きそうになる。
　結果としてお見合いに独自のメリットを見い出した麗さんに白羽の矢が立ったのは、皮肉なようでいて必然だったのかもしれない。
「聞いてもいいですか？」
　私の問い掛けに、彼女は平然と聞き返す。
「何よ？」
「既成事実が認められて結婚が決まったとして、その後はどうするつもりだったんですか？」
　好きでもない男との結婚生活が始まるのだ。というかそれ以前に、妊娠した日付が合わずに貴博さんの子供ではないとバレてしまうのではないか。
「籍さえ入れてしまえばこっちのものよ。篠目家にも体裁があるだろうし、わざわざ真実を晒してことを荒立てるようなことはしないでしょう」
「だとしても」
「それに貴博さんって、私だけじゃなく男女のことそのものにまるで興味がなさそうだったから、案外誰の子だろうが跡取りができるならちょうどいいって考えてくれそうな気もしたの」