「じゃあ、どうしてこんなことを?」
 俯きがちに声を落としながらも、彼女はぽつぽつと語り始めた。
「表向き結婚相手との子供になれば……彼ももう、放っておいてくれると思ったの。私と接触して自分が父親だとバレるのが、一番まずいはずだから」
 つまり麗さんは、誰にも言えない恋人との子供を産むためにだけに貴博さんと結婚しようとした、ということらしい。
「彼に振られて途方に暮れていた私にとって、このお見合いは思いがけず転がり込んだ最後のチャンスだった。理想はさっさとことに及んで、篠目貴博の子供としてこの子を産んでしまうこと」
「俺が、あんたと?」
 貴博さんが不愉快そうに目を細める。相変わらずの態度にひやりとしたが、麗さんは気にも留めていない様子だった。
「当の本人は私に興味がないみたいだから、それっぽい既成事実を作るために男友達に手伝ってもらったの。もちろん友達も私が妊娠していることは知らないわ」
 故に妊娠がバレないうちに、早期決着をつける必要があったのだ。と、悪びれずに彼女は言う。
「一晩同じベッドで過ごしても貴博さんの態度は変わらない。そこで今度はお母様に直談判することにしたってわけ。あちらの方が結婚を焦っているように見えたし可能性はあると思ったんだけど、まさか全部覚えていたとはね」