スタスタと廊下を突き進む間は脇目もふらず、麗さんが足を止めたのは建物を出てからだった。
 玄関と正門の間の石畳ですくと立ち、振り返る。
「あなたが真っ先に追いかけてくるのよね」
「え?」
「お見合いの時も、深雪さんが最初に私を気遣う言葉をかけたでしょう。篠目家の人たちって、基本的に自分が世界の中心にいると思っている気がしない?」
 私は曖昧に微笑み、軽く首を捻るにとどめた。正直、同感だと言いたい気持ちもある。
「まあ一番自分勝手な俺様は、あの男なんだけど」
「あの男……?」
 麗さんが答える前に背後から声が飛んできた。
「子供の父親のことだろう?」
 貴博さんも後を追ってきたらしい。けれどもその口調と態度は、情けは無用と言わんばかりであった。
「酔い潰れたふりした俺をベッドまで運ぶのに、男に手伝ってもらってたよな。妊娠が本当ならその男が――」
「彼じゃないわ!」
 麗さんが断固として首を振る。
「あの男は絶対に私との関係がバレるわけにはいかない人なの。一刻も早くこの子を堕ろさせたいのに、こんな馬鹿げた計画に乗ってくれるわけがないでしょう」
「馬鹿げたって、分かってるのかよ」
 貴博さんが鼻を鳴らす。やはり煽っているようにしか見えないので、私が続きを促してみる。