「深雪さんのことが好きだというのは本当なんでしょう。結局、私に会ってくれたのは例のお話の続きをしましょうと誘った時だけだから」
 文乃さんがいるためか言葉を濁したが、お見合いの際に彼女が持ちかけた取引の話をしていることはすぐに分かった。
 ……そうか、私のせいで貴博さんは麗さんの誘いに乗ったのか。
「あの夜のこと――」
「おあいにく様、俺は酒飲んで潰れたことはないんだ」
「は……え?」
「最初はあからさまな色仕掛けで、効かないって分かったら今度はやたら強い酒ばっかり煽ってきて。ああ、潰したいんだろうなと思って乗ってやっただけ」
 その顔がさっと青ざめる。今まで常に余裕を見せつけていた彼女だが、明らかに狼狽えていた。
「だ、だって目が覚めた時、あなた何にも覚えてないって顔してたじゃない!」
「将来有望な脚本家に、演技指導してもらったことがあるからな」
 貴博さんはしれっと反論していくが、それってつまり――。
「待って、同じベッドでは寝たってこと?」
「そうよ!」
 再び麗さんがハンドバッグを漁る。
 いや、でもここで証拠を出すのは逆に嘘くさい。今時はフェイクの質も上がっているからな……と、物書き的な思考が働くとほぼ同時、貴博さんが「事実」を認めた。
「寝たふりだし、何もなかった」
 堂々としたままの彼に対し、私の困惑が表に出ていたのだろう。麗さんがこちらにすがるように尋ねてくる。