スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました

 台詞と同時に繰り出された捉えどころのない笑みは、兄よりむしろ父親、つまり篠目社長のものと似ている気がした。
「俺が深雪先生と結婚とか、あり得ないじゃん。先生があまりに可愛そうだったから、言ってみただけ」
「あ、そういうこと?」
 ホッとして声を漏らすと、くすくすと笑われてしまう。
「先生まで何言ってるの?」
「だって……もう、びっくりさせないでよ」
 貴博さんも同じくらい唐突にプロポーズしてきたものだから、てっきりこの子も本気なのかと騙されてしまった。
「でも最後まで面倒見るってのは約束だからね。今更先生にやめられてもホント困るんだから」
「それは、もちろん」
 状況は混迷を極めているが、それはそれだ。改めて請け合うと貴晴くんは満足げに頷いた。
「というわけでさ」
 彼は自分を見下ろしていた兄の背後に回り込み、共にくるりと身を翻す格好で部屋全体を見渡せる位置に貴博さんを着かせた。
「兄ちゃんはこの状況をどうやって収めるつもり?」
 その発言と態度は高みの見物を宣言したも同然である。二十歳の幼さも手伝って素直でいい子に見えていたのに……やはり血は争えないらしい。
 まったく、誰も彼も肝が据わっていて嫌になる。
「収めるも何もない。最初からお見合いは断るつもりだったし、俺が好きなのは深雪だから」
 自信たっぷりに告げた貴博さんは、自分の気配を消したくて俯いたままの私を抱き寄せた。